超音波カッター使用レポート
リサイクル? 流用パーツを切り出す

日用品の中には、時折模型に使いたくなる思わぬ形状のパーツや、モールドを持った部品を見つけることがある。また、さらにそれらを分解し内部パーツを見ると、可動部やメカ、ギアなど、さらなる想像にかき立てられるパーツを見つけることもある。ましてやその日用品が、これから捨てようとしているゴミであればなおさらそのパーツを取り出したくなると言うもの。しかし、加工を前提とされたプラモデルと異なり、これら市販品は強固につくられていることがほとんどで、分解はなかなか困難を極める。ではこれらのパーツを気軽に模型に使うことはできないだろうか? 今回のレポートでは超音波カッターを使い、古くなり使えなくなったプリンターを分解。模型用のジャンクパーツを集めてみた。

使用した機材と替え刃

ZO-80を使用。パワーはHighモード&S-highモードを使用した。なお特殊な替え刃は使用せず、標準刃を使用した。

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パーツの材質を確認

まずは分解するプリンタの各種パーツの大きさと肉厚を前もって確認してみよう。 超音波カッターでは切断できない金属パーツについては、そのほとんどがドライバーを使用することで分解、除去することができるため前もって除外しておく。作業中にもし金属パーツに超音波カッターが触れると刃を傷めるだけでなく、耳障りな金属音が聞こえることもあるためだ。

次に確認しておきたいのはそれ以外のカッターで切れそうなボディやギア等のパーツ。 ほとんどのパーツは一般的なプラキットなどと同じPP(ポリプロピレン)樹脂を使用している。ただし、プラキット等のものに比べ、圧倒的に肉厚だ。3mmや5mm厚は当たり前で、本体の角ともなるとかなりの厚みのある部位も見受けられる。さらに強度を保つため面に対して垂直にの何本も柱が立っていることもあり、手動の工具で切断は困難だということが容易に想像できる。
さらに、やっかいなのはギア等の一部のパーツ。これらのパーツには粘りが強く頑丈なPOM(ポリアセタール)樹脂が採用されている。弾力性があるPOM樹脂には、カッターナイフ等の刃が立てにくいのだ。しかもこれらPOM樹脂のパーツが一部の金属パーツの固定も兼ねているため、分解時にはPOM樹脂の切断は不可欠と言えるのだ。



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各種模型工具で分解を試みる

さて超音波カッターで分解する前に、ざっと手持ちの道具でプリンタの切断を試みた。以下はその結果である。


ニッパー

パーツが肉厚すぎるため切断できる部分(挟める部分自体が少ないため)がほとんど無い。


カッター/
デザインナイフ

肉厚なプラに食い込ませるのが精一杯。さらに言えば曲面等が多用されたパーツを切断する際には滑ってあらぬ所に刃を立ててしまう危険性もある。


モデリングソー

切断力に関しては申し分ないものの、切断の際に刃を何度も往復するため疲労度が高い。さらに、切断時に削りかすが大量に出てしまう。曲面の切断もやや難易度が高い。


ホットナイフ

4つの工具の中では最も快適に切断ができた。疲労度も低く、切断しやすいがナイフ自体が高温になるため、切断時にパーツの溶けた匂いが強い。さらに時間をかけて切っていると黒煙が上がり始める。


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超音波カッターによる切断を開始

では超音波カッターでの分解はどうだろう? PP樹脂の切断の場合、プラキット等では超音波カッターの切断力が高すぎるため、素早く刃を動かす必要があったが、今回分解するプリンタは厚みがあるため、ある程度ゆっくり刃を動かすことができた。S-highモードでゆっくり作業するとパーツの溶けや焦げ等が発生することもあったが、ホットナイフに比べるとはるかに匂いも煙も少なく、切断面の溶けによるめくれ上がりも少なく安定していた。こういった厚みのある素材のカットの安定感は超音波カッターならではのものと言えるだろう。

白いギアは金属(スチール)の固定も兼ねているため、早い段階で切断したい所。しかし、このパーツは極めて切りにくPOM樹脂製。通常の工具では切断するのに手間取るPOM樹脂であっても、超音波カッターのS-highモードなら、あっという間に切ることができる。今回は複数箇所に切り込みを入れた後、ギアを曲げて割りながら取り外した。

同じくギアの土台部分。中央には金属シャフトが通っている。こちらもPOM樹脂製で、金属フレームの中にがっちりとセットされていたが、超音波カッターのHighモードで少しずつプラを切り崩して破壊した。


30分ほどで大まかにパーツを分解し、模型に流用できそうなパーツをいくつか取り出した。 しかしそのままでは大きすぎたり、場合によってはさらなる加工が必要になることもあるだろう。 そこで、取り出したパーツを模型等に使用することを想定してさらなる加工を加えてみた。

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外装部分

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1パーツが大きく極めて肉厚。また曲面で構成されたパーツだ。加工してベースなどに使用するのに良いかもしれない。ただしあまりにも大きすぎるサイズが問題。さらに曲面で構成された外装は、通常のカッターやモデリングソー等では作業中に滑る等して思わぬ事故につながりかねない。今回は下部のみ切り落とすという設定で超音波カッターで切断。5mm圧のぶ厚い外装はS-Highモードですぐに切断することができた。

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用紙送り部分

縦にモールドが施された用紙送り部分もまた、想像力がかき立てられる部品だ。適切な長さに切り出したり、部分的にカットしてメカ等のモールドを仕込むのも良いだろう。このパーツもかなり肉厚だったが、細かい部分を切り出す必要があったため、Highモードで切り出している。

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POM樹脂製のギア

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頑丈なPOM樹脂でつくられているためか、長年使い続けていた割にモールドもきちんと残っている。モールドを活用してメカ表現を高めることもできるだろう。ただしギア丸ごとでなく、部分的にこれらのモールドを使用したい場合はギアの切断は必須となる。POM樹脂を切る際は本来S-highモードでの切断がおすすめだが、ある程度細かいパーツに切断したい場合はゆっくり作業ができるHighモードでの作業がおすすめだ。

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余分な部分を落とす

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1パーツで構成されたコの字型のパーツ。裏面のモールドが魅力的だったため、どうしても平面にしたい……という想定で加工。左右に立ったプラ部分はかなり肉厚だったが、S-highモードを使えば片側につき1分程度の時間で切り落とすことができた。

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切り出したパーツを並べてみた所。壁面や床、メカのモールド等さまざまな部位に使用できそうだ。

分解することにより従来のプラキットやマテリアルにとらわれない意外なパーツを見つけることができた今回のレポート。さらに、この分解によるジャンクパーツ集めにはもう1つメリットがあった。
それはゴミ処理上の問題。自治体にもよるが、用意された袋に入る大きさまで分解することで、『粗大ゴミ』ではなく『不燃ゴミ』としてプリンタを破棄することができる。どちらかといえば、こちらの目的の方がメインになってしまったような気もしないでもないが、無事プリンターは分解され、印象深いパーツは今後の模型にも活用できたということで、今回のレポートを終了したい。

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