模型制作のサポートを超音波カッターで行うシリーズ記事。Report.10『超音波カッターで模型作業をサポートする』に続く今回は第2弾。身近なモノを加工し、模型の作業環境を整えることに挑戦してみた。作業中の環境が乱れると模型の作業効率は大幅に落ちるもの。そこで今回は安価な100均の各種アイテムを素材として加工し、工作中に使用する『スタンド』を作ってみることにした。
その1:棒ヤスリスタンド
最近筆者を悩ませていたのが多数の棒ヤスリの管理。先端の形状も様々な棒ヤスリだが、管理がずさんになるとスタンドにまとめて差したり、トレーに雑にしまったりするようになる。しかし、そもそも多種多様な棒ヤスリを用意したのは削りたい形に合わせて、多様なヤスリを使うため。できれば一覧で形状を見た上ですぐに取り出せるように管理するのが望ましい。さらに言えばすぐに取り出し、戻すのも簡単だとなお良いはず。そこで、今回は棒ヤスリを一覧しつつすばやく取り出し&セットできるスタンドを作成してみることにした。
まずはスタンドのイメージ作り。以下のような条件をあげて制作物をイメージした。
・棒ヤスリの形状をすぐに把握できる一覧性の高さ
・ヤスリの先端を触らず、絵の部分を掴みやすくする
・材料費をできるだけ抑える
・スタンドの加工時間自体はできるだけ短く
いろいろと考えた結果、100均の小物収納用ケースをかこうし、棒ヤスリを斜めに傾けた状態で立てかけた形状のスタンドを作成することにした。
使用した機材と替え刃
100均で購入したスチロール樹脂(大半のプラモデル等と同じ材質)製のケースを材料として選んだ。
超音波カッターはZo-80&標準刃の組み合わせを使用。材質のスチロール樹脂はパワーを上げると溶けが大きくなるため、パワーモードはノーマルを選択した。さらに切断面の美麗さにこだわるのなら溶けの少ない薄刃等を使うと良いだろう。
▲今回使用した小物ケース。側面にあいた穴を利用し棒ヤスリを立てかけるケースを作成する。
入手したのは側面にスリットが入ったケース。このスリットを残しつつケースの一面をジグサグに切り、棒ヤスリを置けるようにすることにした。
プラの肉厚は薄いところで2mm。角や飾りが重なった部分では3mmに達していた。箱状に組み立てられているこの厚みのものを普通のカッターやデザインナイフで切断するのはなかなか難しい。うかつに力を入れると材質が割れたり刃が滑るといったことがあるためだ。しかし、超音波カッターを使えば難易度の低い工作となる。側面のスリット同士をつなぎ合わせるように刃を入れ切断。3分程度で全体のカットが終了した。
▲端からカットを開始する。穴をつなぎ合わせるようにカット。厚みこそ2mm以上あるがプラモデルの多くが採用しているスチロール樹脂なので楽に切断できる。 |
▲カットが終了。この切り落とした面を利用して棒ヤスリをセットする。 |
実際に棒ヤスリをセットするとこんな感じ。一覧性に優れ、取り出しやすいという目標を達成。ただ、長時間おいておくにはやや不安なため、棒ヤスリは作業直前に立てかけ、作業後はケースの中に納めるのが無難だろう。
▲取り出しやすいだけで無く、形状や大きさ等さまざまな棒ヤスリを一覧で見ることができる。 |
▲長い棒ヤスリも側面に立てかけられるように加工した。ただし、重量バランスに注意しないと、ケースが転倒することもあるので注意。 |
その2:ランナースタンド
最近のプラモデルの進化には圧倒される。多色成形やパーツの細分化等々、なかなか最近のキットは豪華だ。多くのキットは接着剤を必要とせず、以前よりは明らかに作りやすくなっている。だが、反面色分けや可動範囲の増加によりパーツ数が増え、それに比例してランナーの数も増えた。昔はランナー10枚でもボリュームがあると感じたが、最近はランナー20枚越えのキットもざら。キット自体は完成度も高く組みやすいのに該当のパーツを探すのに時間がかかる。これは最近のキットを組んで感じた感想でもある。もちろん多くの模型ユーザーがそれらを解決するために市販のランナースタンドを購入したり、身近にあるモノを利用しランナースタンドを自作するユーザーも増えている。
そこで筆者も個人的に欲しいと思っていたランナースタンドを『皿立て』を利用して制作してみることにした。
使用した機材と替え刃
100均で購入したポリプロピレン製の皿立てを材料に選択。今回の材質であるポリプロリピレンは柔らかく頑丈な樹脂なのでこういった用途にはもってこいと言える。
超音波カッターは引き続きZo-80&標準刃の組み合わせを使用。スチロール樹脂と異なりポリプロピレンはカットがしにくいため、パワーモードはHighモードを選択した。
まずは加工部分をチェックしてみた。無加工の皿立てにそのままランナーをセットしてみたところ、ランナー自体は立つものの、左右に大きく傾いてしまうことが判明した。皿立ての角の部分がまっすぐなのでランナーが干渉しているのが原因のようだ。そのため、角部分を少し切り落としてやればランナーがしっかり立つはずだ。
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▲ランナーの保持自体は問題なし。しかし、大きく横に傾くためそのままでは多くのランナーを配置することができない。 |
まずはテストとして5枚分のスペースをカット。横方向を超音波カッターで切った後、上から刃を入れて切り落とした。さすがにポリプロピレンのカットは時間がかかり、上下5枚分のスペースを切り取るのに3分ほどの時間を要した。しかし結果はなかなか良好。ランナーはしっかりと立ち、持ち上げてななめに傾けても溝にそって立ち続けるという保持力を見せた。
▼▼上下とも約1cm程度カットしたところ、ランナーがしっかり直立。ランナー近くのパーツが干渉する恐れもあるが、下部をもう少し深めにカットするとさらに安定感が増しそうだ。
残りの角も8分ほどかけてカットし、ランナーを立てかけてみた。一部短いランナーや、ランナー下部のパーツが皿立ての溝に干渉することもあったがおおむね安定して立てることが可能。さらなる改修点として、スタンド下部に番号や記号を振り同じ記号のランナーをセットするようにすれば、ランナーの検索がさらに快適になることだろう。
▲すべての角のカットが終了。ランナーをセットしてみたところ、サイズの大きなランナーから小さなランナーまできっちり保持し立てかけることに成功。 |
▲前方からスタンドを確認。空いたスペースがあるので、まだ3枚ほどランナーを立てることができそうだ。 |
今回は超音波カッターの切断力を活かし、簡単に模型制作のサポートアイテムを制作した。もちろん今回制作したような用途のアイテムは市販品でも多くの良品が存在する。しかし、作業スペースを考えつつこれらのアイテムを制作するのもまた模型の醍醐味と言えるのではないだろうか?
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